株式会社プラスワン代表 遠崎の突撃インタビュー!

くさか里樹(くさか りき)

高知県高岡郡日高村出身。
高知市内の福祉施設に勤務した後、1980年に別冊少女コミック(小学館)『ひとつちがいのさしすせそ』でデビュー。2003年から、老人介護を題材にした『ヘルプマン!』をイブニング(講談社)で連載開始。高齢社会の問題点をリアルに描きつつも、軽いタッチと親しみやすい人物が登場する事などから、幅広い層に支持されている。

遠崎
本日はよろしくお願いします。話題の「ヘルプマン!」を執筆されているので、取材などの申し込みは多いんでしょう?
くさか
一時期、新聞とかテレビとか雑誌とか立て続けに受けたこともあるんですけど、最近はどっちかというと介護業界の研修会や介護士団体のセミナーなどに呼ばれることの方が多いですね。自称“ヘルプマン!宣伝隊”みたいな方も大勢いらっしゃって、「これ読んで、いっぱい広めています。図書館にも持って行きました」とか、もういろんな所で声をかけていただいています。
遠崎
うちのユーザーさんでも単行本を全巻揃えている方がたくさんいらっしゃいます。
くさか
ありがたいことですね。爆発的な売れ方ではないけれど、専門職の方々を中心に買ってくださっているみたいで、地道にこつこつと売れているようです。
遠崎
よく質問されると思うのですが、特徴のあるペンネームですよね。
くさか
がっかりされるかもしれませんが、“草刈機”じゃないんですよ(笑)。“くさか”は、出身地です。高知の西の方にある高知県高岡郡日高村という所なんですが、昔は“日下”って呼ばれていて、今でもJRの“日下駅”があります。最初にペンネームを考えたときに、自分に縁のあるものじゃないとすごく照れがあって。まず出身地を持ってきて、そのあとに何を付けるか…すごい若気の至りでね、“リッキー・ホイ”っていう香港の俳優さんの大ファンだったので、リッキーから“りき”をもらって一人で喜んでいました(笑)。漢字は当て字で、日下は田舎だから山里の里に樹木の樹ということで“里樹”。一応、そういう思いがあったんですね。それで最初、編集社に出したら「ふざけた人ですね」って言われて、その時に初めて“くさか里樹”=“草刈機”に気付いたんですよ。でもまあいいか田舎だしって感じ。名前を覚えていただけることも多いですしね。
遠崎
「ヘルプマン!」は、業界内外ですごく話題になっていますが、介護の漫画を描こうと思ったきっかけはあったのですか。
くさか
いろんな所で言ってるんですけど、自分の漫画の一つのテーマというのは、スーパーヒーローや特別の人じゃなくて、本当に普通の生活の中で生きている人が、人とぶつかってその中からいろんな希望を見つけていく、そしてそういう日常の頑張りを応援したい―、ということなんです。それを表すにあたって、どんな設定を使うかいつも考えているんですけど、その一つに介護というのがあったわけです。いちばん大きかったのは、時代が高齢社会になってきたということもありますが、介護という抜き差しならないところにある人間関係ですごく濃いものが表現できるんじゃないかな、と思ったことですね。自分の描きたい漫画に最適なんじゃないか、と考えてその設定を借りたっていう形ですよ。「介護を描こう!」というようなつもりじゃなくて人間が描きたかったわけで、どっちかというと、何にでもあてはまる人間関係を描いているつもりなんですけど。
遠崎
ほかの作品も見せてもらいましたが、ラブストーリーなども描かれていらっしゃいますね。
くさか
そうですね。ずっと女性誌でかいていましたから。「ヘルプマン!とは全然違いますね」って言われますが、自分は同じことを描いているつもりなんですけどね。以前「ケイリン野郎」っていう漫画で、夫婦や競輪選手の日常のいろんな葛藤や内面などを描いたのですが、自分では「ヘルプマン!」でも同じもの描いているつもりなんです。だって、恋愛も介護も会社の上下関係も学校の友人関係も結局、人間関係じゃないですか。
遠崎
いま介護の現場で働いているのは、大半が女性です。「ヘルプマン!」の主人公を男性としたのは何か意図があったのですか?
くさか
うーん、私は主人公を設定する時に引き算をしていくんですね、なるべくこうマイナス要因を入れていくというか…「切り開いていけてこそ」という道。つまりそこから一番遠いところは何処か?という設定を考えます。だから介護だとすると、あまり居そうにない、というと若者だろう。しかも何も考えてない奴だろう。ものすごい落ちこぼれの奴で今日どうやって遊ぶかしか考えてない。現場は女性が多いなら男性だ。っていうように、逆、逆、逆、に決めていきます。
遠崎
介護は特殊な業界なので、情報収集とかで苦労されることなどはありませんか。
くさか
情報収集に関しては、私はほとんどやらなくてもいいんです。編集さんが、とにかく創作に専念できるような体制をとってくれるので。例えば「制度が変わる」というとすぐにまめに調べてくれるし、とにかく先に先に手を打ってくださります。もう厚生労働省の関係だけじゃなくて、専門的に長けていそうな人脈は常日頃から広めているようです。ちょっとわからないことあっても、すぐ誰かに「どうなっているんですか」と質問できるみたいな感じです。
遠崎
もしかしたら我々よりも詳しかったりするわけですね。
くさか
でも、本や自分の持っているイメージだけで書こうとしたらすごく狭いものになってしまうので、やっぱり現場に行って目の前で見て肌で感じるようにしています。実際に自分で見たり触ったり味わったりというのがないと描けないタイプなので、編集さんは大変かもしれないですね。
遠崎
取材には全国を廻られるのですか。
くさか
そうですね。つい先日も行ってきたばかりですけど、それこそ北海道とか九州だとか。「もうそこまで探してこなくてもいいよ」って言うくらい、担当の編集さんがいろんなものを探してくれるから「じゃあ見に行きましょう」って感じで、ドンドン引っ張られて行っているんですけどね。最近は読者の方からも情報がいろいろ入ってくるようになって「こんな面白いデイサービスがあります」とか、そういうのが来ると「行きましょう」となるから、取材費のかかる漫画でしょうね(笑)。
遠崎
けっこう詳しく描かれているな、って感心します。
くさか
そうですか。でも介護保険は描くのが難しいんですよ。付帯条件がいっぱい付いているし、やたらと複雑になっていく一方でしょ。ひどい時は、描いている最中に変わったりする。それを全部入れていると説明漫画になっちゃうんです。それを切り落としながら、解りやすくしかも間違っているとはいいきれない形で描かなきゃいけない。だから、最も原則的なことをちょっと入れるのが精一杯。テンポも必要なので、説明調になってドラマの足を引っ張らないようにするのはかなり難しい。本音としては“ほとんど描ききれてない感”っていうのがずっと残ってますね。
遠崎
くさか先生が考える介護保険制度の理想というか希望といったものはありますか?
くさか
私みたいなバカでも解りやすくしてほしい(笑)。もうトップダウンはやめていただきたい。それぐらい。だって到底、介護保険で全てがカバーできるわけじゃないし、(全体の)ごく一部じゃないですか。それでもすごい金額のお金が集まっているわけですから、それは有効に使わないと本当に腹が立つ。“切羽詰まっている感”が、他の事とは違いますからね。特に現場の皆さんは、「やりたいことができなくてすごく使い勝手が悪い」って言われるじゃないですか。その中でどうにかこうにか知恵をしぼって制度を当てはめて使っているみたいですけど、もっと自由度がほしいんですよ。問題の根本は、基本的に信じていないっていうか、無駄に(金を)使わせねえぞ、って感じで、がんじがらめに縛りあげていることです。現場のほとんどの人が、自分の生活を犠牲にしながら一生懸命やっていらっしゃるのを見たら「その人たちを自由にやらせてあげてほしい」って思うんですね。
遠崎
私も実際に現場へ出入りしますが、最近、介護で働く人の離職が目につきます。やはり賃金的にも抑制されてきているので、希望を抱いて飛び込んで来る人はいるが、報われないので去っていく人も多いという現実を、国はもっと考えてほしいですよね。
くさか
それは最優先の課題ですよね。
遠崎
例えば、現在の第一号保険者は40歳からですけど、年齢層を下げて月額500円でもいいから低い金額を広く徴収することによって全体の財源を増やす。そうやって介護業界で働きやすいような状況を作ってやれないかな、と思っています。
くさか
そういう徴収金額から含めて、全部自治体に任せていいと思うんですよね。地方で良い事例がどんどん出ると「じゃあうちでも取り入れてみようとか」っていう所も現れるはず。基本フォーマットを国で決めて、やり方は地方分権にした方が、面白い使い方が生まれるんじゃないかという気がしますね。
遠崎
全国を廻ってみると、地域の温度差っていうのは結構ありますね。すごく建設的に介護のことを考えて取り組みをされている市区町村があれば、「とにかくうちはあまり増やしたくないんだ」という所や、介護難民じゃないですけど「うちの地域にはもう転入してこなくていいから」っていう所もありますね。
くさか
そういうのも寂しいですね。もっと介護予防の段階から取り組みをすれば、要介護認定者の増加スピードがゆるやかになると思うんですよ。
遠崎
介護予防が始まった時に、高齢者でもできる筋トレマシーンを使って運動しましょう!っていうのがあって、けっこう無理やりさせられてその期間が終わるとパタッとやらなくなる。そうすると介護度が今まで1だったのが2、3とグングン上がって逆効果になった、なんてこともありました。
くさか
楽しくなきゃダメですよ。楽しい事には介護保険は使わせてもらえませんから。ホント無駄、あの法律自体が失礼ですよ。「老け込んで寝たきりになっちゃ悪いのかい」って感じ。人の人生をコントロールしようなんてね。今の生活をどう維持してあげられるか、っていうことを考えてくれればいいのに、無理やり筋トレなんて…。
遠崎
自分が歳とったらこんなことさせられるのかな、って思うと凄く嫌だった。普通にみんなと会話できる所へ行って、話ができればいいんじゃないかと思うんですけど。
くさか
あんまりお膳立てされた所へ行って気を使って話すのも嫌じゃないですか。やっぱり楽しい所へ行って楽しいことをやるっていうのが一番良いんですよ。子供と散歩しながらくだらない話をするとかね。
遠崎
先生がもし、漫画家でなかったら何になっていましたか?
くさか
何になっていましたかね…。もしかしたら、卒業して就職した福祉施設でそのまま福祉のお仕事をしていたかもしれないですね。
遠崎
じゃあ、この「ヘルプマン!」は、会うべくして巡り会ったといえるかもしれないですね。
くさか
そうですね。そう思ったらすごく不思議ですよね。その(就職した)福祉施設は、選んだわけじゃなくて、たまたま求人があったんです。そこで知的障害者の人たちと一緒に過ごした事は、私にとって目から鱗が落ちるような出来事でした。なんかすごい壁があったんですよね、障害者の人たちに対して。「人間は平等だ。だから絶対特別視しちゃいけないんだ」って当たり前じゃないですか。その当たり前のことを今は全く意識することなく普通に思えるようになったのは、やっぱりあれが原点だったかもしれません。
遠崎
介護関係の漫画というのはあまり目にしません。話題性はあるのになぜでしょう。
くさか
いくつかはあるみたいですけど、読んだことはないです。でもね「いま介護の話を描いている」って誰に言っても「えーっ!」て顔されるんですよ。なんでですかねぇ。結局、タブーなものって勝手に決めている感じがありますよね。ウンチ描いちゃいけないとか、老いた姿は醜くて書いちゃいけないとか、そういうものは世間に見せちゃいけないとかで。それにうっかり書けないですよね、現場の人は本当に大変な思いをされて介護しているわけですから。「それは楽しい」なんて書けないじゃないですか。その辺でやっぱりプレッシャーや躊躇する事柄はすごく多いです。でもアンタッチャブルとは思わないですよ。だって誰でもいつかは自分の身にも起こりうることだから。ただ人が生きているっていう当たり前のことなので、どうしてウンチしちゃいけないの?汚いって思う方がおかしいんじゃないの?おなかの中にさっきまで入れていたんだよ。…そういう当たり前のことがさげすまれているっていうのが許せないと思います。
遠崎
そうですね。介護という括りで暗く見られがちっていう心配はありますよね。でもそこをくさか先生はうまく明るい形に表現されているので、介護で働いている方も元気が出るのだと思います。
くさか
最初にすごくたくさんハガキが来たんですよ。みんな(この漫画に対して)知らんふりするんじゃないかと思ってたのに。「漫画でまで日常生活の話は見たくない」って却下されるんじゃないかと思っていたんですけど、ホントにいっぱい来たんです。たぶん、みんなが考えているんだけど、まとまりが付かなくてモヤモヤとしていたものに対して、一つの起爆剤になれたのだと思います。ただ、漫画は本当にちっぽけなパーツみたいなもので、それぞれの思いがそこからドンドン開放されていったとすれば、ホント大したこと描いてないんですけど、描いてよかったかなって思います。
遠崎
本日は貴重な時間を頂き、ありがとうございました。